―流星の追憶― 

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雪原の亡霊

 
2ヶ月、間が開いてしまいましたがお題を一つ。

ブルーシア島の透水時雨さんよりお借りした、
「喪失を彩る20のお題」。
2題目、今回も詩です。
…いや、ショートストーリー?;



02.雪原の亡霊


山のふもとでは 桜の花が綻ぶころ

山のてっぺんに残っていた白が 少しずつ消えてゆきました

そんなとき

山のてっぺんに遊びにきて 生まれて初めてその白を見た女の子がいました

山のふもとでは 花が歌っていても

山のてっぺんでは まだ粉雪が踊れるほどの世界だったのです。


手のひらに白を受けながら歩いていた女の子は

木の影に誰かが立っているのを見つけました


あなたは だぁれ?


女の子は尋ねました

女の子には、それが何なのか分からなかったのです

その誰かは答えました


私は… 自分が誰か分かりません。


女の子は、そんなことを言われたことがなかったので、

不思議そうにその人を見返しました。

白いセーターを着たその人は困ったように、笑いました。


自分が誰だったのか、その記憶も溶けてきてしまったようなのです。

溶ける?なくなっちゃったの?

そうみたいですねぇ。


ほわん、とその人は笑いました。

女の子は、その人が優しい人なんだなぁと思いました。

だから、てくてくとその人に近づいて、驚きました。

その人は、ほろりほろりと泣いていたのです。


どうして泣いてるの?

消えてしまうから。泣くから、消えてしまうのに、消えてしまうから泣くんです。


女の子はどうして泣くのかが分からなくて、

だけど自分も悲しくなって、ぽろぽろと泣き出しました。

その人は慌てましたが、何だかその人はそこから動けないようでした。


泣かないで、ね、泣かないで。私は大丈夫です。

本当に?

ええ、ですから、今日はお帰り。もうすぐ日が暮れます。


ほんのすこし安心した顔をして、その人は西を振り返りました。

太陽が、ゆっくりと傾いていきます。

その人は笑って見せて、女の子は安心してその人に背を向けました。


また明日、会える?明後日も、会える?

ええ、きっと。

あたし、明後日になったら、おうちに帰るの。それまで友達でいてくれる?

ええ、約束です。

良かった。


女の子は、そうしてお父さんとお母さんのところへ戻りました。



次の日になりました。

女の子が昨日の場所へ行くと、なんだかその人は少し小さくなったように見えました。


こんにちは。

………。


冬の空色の目が、女の子を見返します。

ほんの少しの間があって、その顔が笑いました。


おはようございます。また、会えましたね。

うん、会えるよ。約束したでしょう。

……、…そうですね。


なんだか今日のその人は、具合が悪いようでした。

涙は相変わらず流れていて、女の子は困ってしまいました。

お返事も遅くて、なんだかふらふらしています。


ねえ、だいじょうぶ? 今日は早くかえって、眠ったら?

……いいえ、大丈夫です…。

うそつき。


女の子はそう言って、自分のマフラーを解きました。

そうして、その人の首にさっと巻きます。

その人ははっとした表情をして身を硬くしましたが、女の子は気づきません。


これ、あげる。早くかぜは治さなくちゃ。

………ありがとうございます。

あたし、明日会いに来るから、そのときは元気でいてね。


そういって女の子は、あっというまに駆け去ってしまいました。

その人は困ったようにマフラーに手をやりましたが、

外すことはもったいなくてできないようでした。

頭の上を、冬の太陽が通っていきます。

その人の涙は止まりません。



あたし、明日会いに来るから、その時は元気でいてね――




明日が今日になりました。

女の子は一生懸命走って、その人のところへ行きました。

マフラーも貸してあげて、昨日は早く帰ったのなら、

きっと元気になっていると思ったのです。

思っていたのです。


……どうしたの…?


最初は、お母さんと同じくらいだったその人が、

今は女の子と同じくらいになっていました。

その人が、女の子を見返します。

その首には、あのマフラーがきちんと巻かれていました。


…ごめんね。もうお別れなんです。

どうしたの?ねえ、どうしたの?

春が、来るんです。


女の子は、その人を見ました。

ぽたんぽたんと涙が落ちて、その下に地面が見えます。

改めて周りを見てみれば、あちこちでそのように地面が顔を覗かせていました。


私、春香っていうんだよ?私のこと?名まえ、おしえてないよ。

いいえ、いいえ、春が来るの。冬が、終わるんです。


ぽたんぽたんぽたんぽたん。

少しずつ少しずつ、その人が溶けていきます。


ねえ、どうしたのお願い、いっちゃいや。お友達っていったのに。

ごめんなさい、春香。私はもういられないの。

どうして?どうしてなの?

私は


その人の顔が、泣くのを耐えるように歪みました。

だけど涙は止まりません。

その人の小さいからだが少しずつ少しずつ、透明になっていきます。


私は 雪の精霊だったんです


女の子には 精霊なんて言葉が分かりません

行かないで、行かないで、とただ繰り返します。

ぽたん、と、一粒。ひときわ大きい雫が垂れました。


ゆきのせいれいさん――


名まえを呼んだ時にはもう、その人はいませんでした。

女の子のマフラーも一緒になくなっていて、

ただそこに地面と、花の芽が残っているだけでした。


……溶けちゃったの?


女の子は、その人が記憶が溶けたと言っていたことを思い出しました。

自分のことも、その人の中から溶けて消えちゃったのでしょうか。

その時、冬の風がたった一陣、そこに吹き抜けました。



お友達  忘れないから



誰かの声が 聞こえました。その声はその人に似ていました。

どこかの誰かが作った雪だるまはすっかり溶けて、

女の子がそこに残されました。

ぽたんと、女の子の目から一粒の涙がこぼれました。


山のてっぺんに いつもより早い春がやってきました。


その女の子は、それから毎年そこに来て、

その人を探しているそうです。

雪原に立つ、あの人がいないかどうか、

新しいマフラーを首に巻いて。




・・・・・・・

当初の目的→ふわふわファンタジィ

結果→な ぜ か シ リ ア ス


orz



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