―流星の追憶― 

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鷺お題でSSその六「蒼爛と落ちる星」

 
鷺お題小話第六弾、は、クレスで♭お題に挑戦してみたのですが…。
なんか…最初に書こうとしてたの思い出せなくなってなんか変な感じになった…(←
後々、結構大掛かりに修正入れるかもしれませんが、ひとまず今日のところはこんな感じのお話としてアップしておきます。

一言で言うなら、これは、「悪い夢」です。
それだけのお話。

目覚めた後の現実世界で、ヘタレンジャーの方々をちょっとだけお借りしています。
ではでは、追記からどうぞ。



「こんな夢を」 
 
 



■星詩家■
蒼爛と落ちる星





 バシャンッ



 聴覚が音を捉えた時には、もう、水の中に叩き込まれていた。
 呆然と見開いた目に、一瞬、波紋で波立つ水面が映る。何が起きたのか理解する暇もなかった。

「―――ッ……!」

 がぼりと水を飲み込んだ肺が、絶叫する。
 本能に突き飛ばされ、必死で水をかくと、水面に顔が逃れ出た。血を吐くように咳き込みながら、息を吸い込む。訳が分からなかった。どこまでも広がる、夜空を映した黒い水面。池なんてものじゃない、湖か何かの真ん中にいるとしか思えない。此処は何処だ、なんだって自分はこんなところにいるんだ、

「たすけ――」

 叫びかけた声が水音に掻き消された。床が抜けたようだった。信じられない勢いで、落ちるように、身体が水中へ引き擦り込まれていく。もがこうとしても、足が動かなかった。どうして、と絶望に近い気持ちで視線を落とし――そのまま凍りついた。

 右足に、人がしがみ付いていた。
 ブーツをはいていなければ、突き立てられた爪から血が流れていたかもしれない。それくらいの強さで、がっしりとしがみついて――それでいて、氷のような無表情で、その「人」は自分を見上げていた。白い髪が水中に揺れる。自由になろうと、反射的に蹴り出しかけていた左足が、動きを止めた。この顔は、

(……僕!?)

 目が合った瞬間、その「自分」が、すぅっと微笑んだ。
 悪意の欠片も無い、とてつもなく穏やかな微笑みに、逆に血の気が引いた。

(…っ、……夢だ! こんなの絶対に悪い夢だ!!)

 声を出さずに絶叫し、水面を見上げた。見ている間にもぐんぐん遠ざかっていく。両手で鼻と口を塞ぎ、逃げようとする酸素をなんとか飲み込みながら、左足を振り上げる。夢だからといって、このまま大人しく溺れるなんて絶対に嫌だった。視界にちかちかと不自然な光が点滅している。思考が霞む…!

(…離れろ! 早く、覚めろ、こんな夢……!!)

 キックが命中する直前で、「自分」は呆気なく手を離した。
 流石に予想外で、空振りした左足もそのままに硬直していたのがまずかった。「自分」がひらりと泳ぎ、ぶつかるくらい顔を近づけてきて――
 悲鳴を上げていた。仰け反った喉から、白い泡だけが音を立てて水面へ逃げていく。首を掴む「自分」の指が、爪が、今度こそ食い込んでくる。両手両足を全部使って振り回しても、蹴っても、引っ掻いても、痛みすら感じていないのか、「自分」はあの微笑を浮かべたままだ。
 視界が暗くなってきた。深くへ沈められているからなのか、意識を失おうとしているからなのか、分からない。
 薄れながらも、これは夢だ夢だ夢だ絶対に夢だと呻いていた意識が、初めて呟いた。

(――――殺される?)
 
「大丈夫だよ」

 嫌というほど知っている声が、優しく囁いた。
 見開いた目に、微笑が喋っているのが見えた。見慣れた蒼い星のペイントも――

(ちが、う)

「君は死なない。君を殺しにきたはずがないじゃないか。……というか、死ねないよ。まさか、自分は死ねるなんて思っていたの?」


 もう、「自分」の声なんてろくに耳に入ってこなかった。「自分」の顔に浮かぶ蒼い星を、ひたすらに凝視する。左頬の、涙のペイントは、同じだ。自分のものだ。ネウのペイントでもない。これは、「僕」だ。でも、

(右目が)

 蒼い星。
 「自分」の顔の、右半分にあるのは、それだけだった。あるはずの右目が、そこにはなかった。星のペイントだけ。どうして、 

「聞いてるの」

 首に込められる力を強くされて、声も出ないまま呻いた。楽しそうに笑う「自分」の向こうに、微かに、水面の光が見えていた。遠ざかる。落ちているんだ、とぼんやり思う。やれやれ、と呆れたように首を振って、「自分」がぼやいている声が聞こえた。

「わざわざ迎えに来てあげたのに、そんなに暴れなくたっていいじゃないか」

 何を言っているんだろう。

「それはこっちの台詞だよ。君がそう望んだのに」

 「自分」は、可笑しくて仕方が無い、というように笑っている。
 
(―――誰が? なんだって?)

 水中の奥深くへ奥深くへ沈みながら、右の頬に何かが触れるのを感じた。「自分」の手だ、と気づくのに少し掛かった。もう、振り払う気力も体力も残っていない。優しい手つきで、まるで愛しむように撫でる「自分」の手をぼうっと眺めてから、のろのろと視線を上げた。「自分」を見上げる。初めて思った。

(これは、誰だろう)

「君さ」
 
 「自分」は微笑むと、歌うように続けた。

「願ったくせに忘れちゃったの? もう歌なんてどうでもいいって。歌えなくなっても、聴いてもらえなくてもいいやって。だから喜んで迎えに来たのに。いらないって言うなら、その魂(こえ)を、僕が代わりに喜んでもらうよ。だから君は向こう側へ行けばいい」

 そうすればお互いに幸せなんだから。

「君が、終わりにしたいと願ったんだろう?」



 言われた言葉を理解するのに、しばらく掛かった。――理解したとたん、落ちかけていた瞼を見開いて、口が勝手に叫んでいた。声が飛び出した。

「嘘だ!!」

「嘘じゃないよ」

「僕がそんなの願う訳ないだろう!?」

「だって、ほら、君、ミラを持ってないじゃないか」

 瞳が凍りついた。
 勝ち誇ったような表情を浮かべて、「自分」が顔を近づけてきた。

「だから、これ、僕が貰ってもいいよね」

 「自分」の手首に浮かんでいる蒼い星が、一瞬、視界に移った。


 それっきり、真っ暗になった。

 




(たすけて)



(だれか)






(僕を起こして)











 
 微かに、声が聞こえた。

 誰かに肩を揺さぶられているのも、頬を叩かれてるらしいのも何となく感じる。
 目を開けようとして、何度か失敗してから、やっと、ぼんやりと視界が開けた。
 
「――クレス!! 良かった!起きた! あー、良かった…!」

「大丈夫か、顔まだ真っ青だぞ」

「…ネギー? ゴウも…」

 心配そうに表情を曇らせた二人が、星空を背景に自分を覗き込んでいた。
 しばらくのろのろと瞬きを繰り返す内に、ゆっくりと記憶が蘇ってきて――。今更のように身体が震え始めて、クレスは咳き込んだ。慌てたように、二人の手がぽんぽんと背中を叩いてくれる。涙の滲む瞼を擦ろうと右手を持ち上げて、はた、とクレスは動きを止めた。

「……えっと」

 問いかけるような視線を向けたとたん、ネギタレが「あ」と呟いて固まった。

「ちち違っ、クレスが、なんかめちゃくちゃ苦しそうに呻いてたし、手も伸ばしてたからっ、つい、条件反射で!! 条件反射なんだよ、な、ゴウも見てたよな?」

「あー…まあ……あれは手を掴むのが自然だったと思うぜ? そんな取り乱さなきゃもっと自然だったろうけどな」

「うっ…ですよねー……」

 両手で頭を抱え、どんよりオーラを纏って俯いてしまったネギタレに、クレスは思わずゴウと顔を見合わせ、笑ってしまった。なんとか言うことを聞くようになった身体を起こし、傍に置いたままだったミラを引き寄せ、抱きとめる。

「二人とも、ありがとう。…多分もう大丈夫」

「本当か? …なら良いけど、あんまり無理すんなよ」

「まあ、ちょっとずつ顔色良くなってきたみたいだし……。一応、今、サニタ君がレメを呼びに行ってくれてるんだけどさ。せっかくだし、気分転換兼ねてヘタレンジャーみんなで何処か行かない?」


 うん、と答えて、夢の残りを断ち切るように、歩き始めながら。
 どんな夢を見たのかと聞かれないことが、ありがたかった。一瞬、ぎゅっと目を瞑って、記憶にこびりついているあの顔を追い払う。このまま忘れてしまおう。それが一番良い。
 心の中で、何度も何度も、噛み締めるように呟いた。




「大丈夫」







(落ちてゆく蒼い流れ星に、消えていく心の彼方に、
 ただ、今は、星に願いを) 
日記 |
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